伊東潤著「野望の憑依者」を読んだ感想~足利尊氏の執事は傲慢で強欲な武辺者

こんにちわ、歴史と漫画好き。
いのまんです。

今回は、大好きな歴史小説家・伊東潤先生の「野望の憑依者」の感想を書いていきます。

今月、ジャンプの新刊で「逃げ上手の若君」という北条時行を主人公にした漫画の1巻が発売されて、南北朝時代なんて珍しい時代の選択をした事で話題になっていました。

そんな「逃げ上手の若君」にも一コマだけ出てきた本作主人公の”高師直”。
なんか名前を聞いたことがあるなと思ったら本作を読んだ記憶でした。

改めて読み直してみたので感想を書いていこうと思います。

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「野望の憑依者」~あらすじ

時は鎌倉時代末期。
足利家の家宰・高師直は、幕府より後醍醐帝追討の命を受け上洛の途に就く。

しかし師直は思う。
「これは主人である尊氏に天下を取らせる好機だ」。

帝方に寝返った足利軍の活躍により、鎌倉幕府は崩壊。

建武の新政を開始した後醍醐帝は、次第に尊氏の存在に危機感を覚え、追討せよとの命を下した。

だが師直はすでにその先に野望の火を灯しており……。婆娑羅者・高師直の苛烈な一生を伊東潤が描いた南北朝ピカレスク!

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足利尊氏を支えた執事・高師直の半生記

主人公は室町幕府を建設した足利尊氏の”執事・高師直”ですが、自分はこの小説読むまで”高師直”の名前を知りませんでした。

以前、この小説を読み終えた時に胸糞悪い気分になったのを覚えているのですが、その理由は”高師直”の性格があまりに残虐だったからなんです。

悪いんです。必要悪凌駕するあくどさです。

自分の欲望に忠実で他人を信用せずに己の信念のみを信じ貫いている人物ですが、非情で自分の損得だけで長く一緒に良きを過ごした身内の武将を切る事も1度や2度ではありません。

最後に裏切られて一族根絶やしにされてしまった事には、「やっぱりそうなるよね」という感想を抱いてしまうほどに・・・

甘っちょろい現代に生きている管理人にとっては高師直の生き方は苛烈過ぎました。

しかし、今回改めて読み直してみると依然見えなかった点が見えてきました。

これは前から気が付いてましたが、根本的に戦上手なんです。

足利尊氏を支えるのが執事である師直の仕事ですが、尊氏は優柔不断で抑鬱の症状があるため(史実でも悩み多き人物ではあったよう)、本来兵を鼓舞する立場の尊氏を師直が初めに鼓舞して戦に向かわせるといった描写は何度も描かれています。

部下や同僚に非情な決断をする師直ですが、尊氏を支えるという点に関してはとても良く描かれており、本作で戦前の見どころと言っても過言ではないです。

一般的に考えても、上司が乗り気では無い仕事って部下もやる気が出ませんからね。
戦は戦が始まる前に勝敗が決していると師直は言ってますが、こうゆう点から生まれてくるのでしょう。

また、とても情けなく描かれている足利尊氏ですが、Wikipediaで尊氏の性格を調べると

  • 心が強く、合戦で命の危険にあうのも度々だったが、その顔には笑みを含んで、全く死を恐れる様子がない。
  • 生まれつき慈悲深く、他人を恨むということを知らず、多くの仇敵すら許し、しかも彼らに我が子のように接する。
  • 心が広く、物惜しみする様子がなく、金銀すらまるで土か石のように考え、武具や馬などを人々に下げ渡すときも、財産とそれを与える人とを特に確認するでもなく、手に触れるに任せて与えてしまう。

この点を見ると主君として崇めたくなる性格の持ち主だという事がわかりますね。

野心的で欲望に忠実な師直は南北朝時代でも屈指の悪役として描かれていますが、それでも自分を頂点とするのではなく尊氏の右腕として活躍してきた事を考えると、戦国時代の松永久秀や明智光秀とは全く違う悪役像が浮かんできます。

歴史は勝者が作る。

高一族が根絶やしにされたことから、室町幕府設立のために悪とされる部分の一挙手一投足全てを高師直も押し付けたのではないかなって思ってしまいますね。

架空人物・佐平治

この作品では架空の人物が登場します。

師直が物語途中で、博打で負けて腕を切られそうになっている商人・佐平治を助けます。

彼が武士になりたいという欲望を見込んで、自分の部下に付けます。

当初は武士ではなく付き人のような扱いだったのが、天候を読むことに長けていた事と商人として得た知識を武士の世界で応用する機転によって武士となる事を果たします。

この佐平治が物語中盤から躍動を始めます。

始め、師直は自分の考えを中心に作戦行動を取っていますが、佐平治の情報収集能力と作戦立案能力の高さに頼るようになっていきます。

年齢なのか、権力に胡坐をかいた事によっての慢心なのか、師直が師直たら占めてきた悪知恵が全く浮かばなくなるにつれて佐平治に頼る機会が増えていきます。

師直が徐々に徐々に丸くなっていき、佐平治がどんどん過激なアイディアを出すようになってくる。
この世に渦巻く欲望には限りがあって、その限りある欲望を取り合うのが人間の性なのでは無いかと思わされてしまいます。

架空のキャラである佐平治を描くことによって、高師直を知らない人でも魅力的に映るように描かれていますね!

けど、最も魅力的だったのはキラッキラの正義のヒーロー・楠木正成だったと思います。
やっぱり陰より陽に惹かれるんですよね!

最後に

最初は鬼か悪鬼かというような師直ですが、終盤には女性にうつつを抜かして人間らしさが出てきてしまう師直がどんどん魅力的に映ってしまいます。

途中暗殺されそうになるシーンとか、注意力散漫!
って心の中で叫んでしまったし。

この室町時代も読んでみると面白いものですね。
ちょっとハマりそうです!

ではでは、最後までお読みいただきありがとうございました。したっけね!

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